こうして三歳から五歳までに、この目的感を持って実行する性質を育てます。目的感を持って生きるということが非常に大切なのです。これは、私が自分で考えたというよりもエリクソンという学者が言っているのです。私はそれは正しいと思っています。こういうふうに、いつも何かに挑戦する性分を、三歳から五歳までに育てることが大切なんですね。この時期に育てないと、もう育ちにくいのです。私は今日は何をやろう。私はもっとこういうことがやれるようになりたいと、三歳から五歳までに育ったものが本物です。大人でも、ああいう生き方じゃいけないなぁ、と思う人がいますね。子どもがもう三人もいるのに朝からどこへ行ったのかと思ったら、パチンコ屋でパチンコをしている。また明日の勤めも忘れて、夜中の一時までもマージャンをしている。目的感がなくてぶらぶらしているのですね。これは、三・四・五歳の時に目的感を育てなかったからです。三・四・五歳の時に育った目的感は絶対に失われません。今日の演題は「生きる力に満ちた子を育てるには」ですが、この生きる力とは、まず目的を持つことでしょう。 人に言われて勉強するのじゃだめなのです。私の園では、子どもが、「今日は自分がクラスのリーダーだから、りっぱにリーダーの役をしよう」と目的を持つようになります。どのクラスにも、その日のリーダーを当番制でやらせることになっています。そうすると、その日の生活面で、その子が中心になります。そして園が終わって家に帰るときに、今日はクラスがどうだったかと、リーダーが中心になってクラス全体で反省をします。先生はなるべく前面へ出ません。子どもだけでやっていく。これを今、私の園でやっているのです。このように、子どもたちが目的を持ってやっていく。それを先生が見て「朝言った通りに出来たね。立派だよ」と言って認めてやる。その出来た程度によってまた励ましを与えます。そして一生の間、いつも目的感を持って生きるように育てようとしています。いいかげんで、生きているのか死んでいるのかわからないような、そんな生活をさせたくないのです。 親から、やれやれと言われても、目的感がつくものではありません。むしろ、いやだいやだとやらない子になってしまいます。
それから読みたいとか書きたいという目的感について申します。読むということはとても大切なことです。まずお母さんが一日のうちで簡単に短いお話でもよいから、二歳か三歳の時に読んであげる。このごろの絵本は素晴らしく発達していて、日本の童話、外国の童話など書いた本がたくさんありますね。私たちの子どもの頃に比べますと羨ましいですね。絵本を小さいときから読んであげる。子どもはそのうちに自分で読んでみたいと思うようになります。一字一字書かせようとしたりするのは間違いです。子どもは関わっているうちに興味を持ってくるのです。読みたいなぁと思うと文字に関心を持つ。そして町を歩いている時、あそこにあんな看板が出ている、ここにこんなのが出ている、そういうので片仮名や平仮名を自分のものにしていくのです。三歳でも相当の文字を知っていますよ。そういう自然ないきかたをして行きますと、四歳になるとかなり読めるようになります。書くことはあとまわしでいいのです。三歳児で書く子もいますが、大抵は、かなり読めるようにならないと書けないのです。左右逆になって鏡に写したような鏡文字になるのです。それで書くことは四歳くらいで放っておいてよいのです。書きたいとき、何かのときに「本当の字はこ うよ」と一言いってあげることでよいのです。このようにしていくと、ずいぶん本に親しみを持つようになります。年長さんになると、絵がいっぱい入っているような絵本は卒業します。 小学校三年生くらいの力や素質が出来ている子がいます。そういう子になりますと、四ページから五ページに一つ挿絵があるような本を読むようになります。驚くほどに本を読みます。決して読みなさい、と言うのではなくて、自分から興味を持って読むのです。それが本当のいき方です。 子どもの力に驚きます。素晴らしいなあと思います。親は先に立って引き上げようとしてはいけないのです。環境が大切で、何となく親も楽しみながら読んでいれば子どもも乗ってくるわけです。そういうことが大事なことだと思いますね。三歳から五歳は目的感を育てるといいましたね。