子どもっていうのはすごいですよ。 園のことでも、この園をどうすれば良くなるか。この室の生活をどうすれば良くなるか、気持ちの良い幼稚園にするにはどうするか、こんなことを相談かけますと、なかなかうまいことを言いますよ。子どもたちというのは「それ、やれるかなぁ?」と言いますと「やれる、やれる」と積極的になります。そのときに、子どもたちは物を冷静に客観的に考える大人の知恵を身につけます。そういう仕事を通じて、幼児は、やがて自分たちが父親や母親になったときの生き方を、自分の中に取り入れていくのです。皆さんがお母さんとしてやっておられることが、皆さん自身のお母さん、今のおばあちゃんといかによく似ていることか。それは、皆さんのお母さんを通じて身につけられたものです。子どもとしての性質、親としての性質、それから 社会を客観的に眺める理性的な性質、この三つの性質を、みんなプラスになるようにお育ていただきたいと思います。そういうものが育っていきますと、どんな苦境にぶつかっても、それを乗り越えていけますし、また苦境に入らないうちに苦境をちゃんと避けることの予防の力も育ちます。 そして、子どもたちは小学校へ行ってから慌てることのないようになります。
小学校へ行くともう苦が始まります。この間も一学期の終わりに、一年生を持つお母さんが学校に行き通知表をもらった後で私の所へ来られ、「先生、通知表をもらいました。3が四つに2が三つでした」なんておっしゃる。そんなことを聞くと、私も、ああいよいよ子どもたちも成績を苦にする世界に入ったなぁと思います。
一年生になると、もう苦の世界が始まるのです。それだけではないのですね。いじめの世界が始まります。 学校で、家庭で、うまくいかなかった子どもが、他の子から、ちょっと弱いなぁと思われると、いじめられる。こうして、いじめという苦の世界が始まりますが、そういうことにもめげないで、それを明るく乗り越えていける子供、これは皆さんのやり方、育て方次第ということになります。
「あー、しまった、一歳のときに希望を育てなかった。 三歳まで意志力、自立性を育てなかった」と思う方もおられるでしょう。しかし、今のうちなら、 まだ取り戻しやすいのです。 希望なく小学生になったのではだめです。もう暗い人間になってしまってからでは取り返しがつきません。
まだ無邪気な幼児の間に、明るさを育てて下さい。「だめじゃないの」「まだそんなことして」と叱ったり、顔をしかめたりしていては、明るさ、希望は育ちません。やろうじゃないか、一緒にやればやれるんだよ。という調子で励まして、「ほら、やれたじゃないの」と自信を持たせる。こういうふうにして導けば、幼児のうちなら取り戻しやすいのです。どうか明るさ、希望、意志力、何でも自立的で自分でやる。そして目的を持ってやる。そした
ら必ず小学校くらいは簡単にやれますよ。そんな難しいものではありません。
小学生には有能性を育てることが大切です。なんでも自分でやれるという有能感を育てることです。劣等感を育ててはいけないのです。屈辱感を育ててはいけないのです。小学校の一年生、二年生はそんな困難なものではないのです。三年生になるとちょっと難しくなります。ですから私が先程から言っていることで、うちの子に足りないなぁと思うことがあったら、今のうちに取り戻してほしいのです。そうすれば、自分は有能だ、と有能感を持ちます。これが持てないと劣等感、屈辱感で暗くなっていきますから、どうか一つ、そういった良い性質をお育てください。そして子どもに一生明るく生きていける、有能性で生きていける、希望を持って、意志力を持って生きていける、そのように生きる力に満ちた子にどうか育てて下さい。生んだからにはそのように育てる責任が親にあると私は思います。