創設者林三雄先生の言葉

 「こどものその」の創設者で前園長の林三雄先生が、1986年に林先生の出身地である魚津市の明星・大谷両幼稚園の合同講演会に招かれて話したことを収録したものです。

林先生の教育観や「こどものその」の教育方針をご理解いただくのにご参考になさってください。


生きる力に満ちた子を育てるには

 ただ今、ご紹介いただきました林でございます。今程もお話がありましたように、私は、この町の角川のすぐそばに生まれました。そして二十歳すぎには、この町を離れたのでございますが、又 戦争の時に戻って参りました。 そして魚津の女学校(現在の魚津高校に統合) に戦争のごたごた中や、その後始末が終わる頃まで勤めていました。昭和二十四年に富山大学ができることになりまして、その前の年に富山の方へ移りました。そして昭和五十二年まで三十年間近く、富山大学に勤めていました。


 富山大学で附属幼稚園長、小学校長を兼務したとき、幼児教育の重要性を痛感し、富山県にしっかりした幼児教育が必要だと思いまして、大学でも幼稚園の先生の養成をやらなくてはならないと主張し、全国でも早い時期に、四年制の幼稚園教員養成課程を作ってもらいました。

 

 実は、それまで私は、どちらかと言いますと、主に小学校や中学校の教育に強い関心を持って、そちらの研究をやっていました。今、この室に本江小学校の校長先生と、大町小学校の校長先生がおいでになっていますが、両先生は本江小学校で一緒に教育研究した間柄です。本江小学校へは、二十一年も前から参りまして、教育に協力していました。私たちが努力したことは、子どもたちが一人ひとり自分の可能性を実現して、学習は自分自身でやるんだ、自分の持っている力を自発的に出して、自主的に学習するのだ、子どもには素晴らしい可能性があるのだからそれを実現していく、先生から受け身になって習うというのではなく、子どもが内に本来持っているものを自分で開発していく、そのように子どもたちを主体者に育てよう。そして更に、子どもたちが集って、協力することで、一人では出来ない立派なことが成し遂げられる、そんな教育をしなければならないと考えて、 本江小学校の先生たちと教育を工夫していたのです。だが、そのうち次第に、小学校以前に幼児期にしっかりした教育を行うことが大切だと思うようになったのです。そうして、九年前に、富山大学を定年で退職すると共に、高岡市で「こどものその」という幼児教育の園を開きました。

 

 現在、私は富山女子短大へ講義に行かない日は、この「こどものその」で幼児たちと一緒に過しています。特に私の担当は、入園当初の親離れの出来ない子どもの世話です。そのような子どもが、早く園に慣れ、自分の素質を発揮してくれるように導くのです。それは四月から五月の時期ですが、子と親の心理を推察しながら、泣く子との闘いです。 その時期が終わると、楽しみながら、子どもと一緒に折り紙を折ったり、走ったり、子どもと一緒に副食を作ったり、お母さんや先生と一緒に子どもの指導にあたったりしています。


親も園の教育に参加する

 私の園では、お母さんたちに自由に保育参加していただいています。その理由は、子どもを本当に愛情を持って育てられるのは、先生ではなくて、親ではないか、と思うからです。身も心も打ち込んで心配することを「親身」になって考えると言いますが、「師身」になって考えるとは言いません。


子どもの成長は素晴らしい

 子どもたちは本当に素晴らしいです。今、小学校へ行く前の子どもは大抵の方は満六歳を迎えておられる。もう六歳半という園児もいます。そういう子どもなどはすごい力を持っています。

縦割り保育と横割り保育

 私の園は、国、県、市いずれからも補助を受けていないので、思い切った自由な保育ができます。どの保育室にも、年長・年中・年少さんが混じって一緒にいるのです。食事をするのも、おやつを食べるのも一緒なのです。これを縦割りといいます。

目的感を育てること

 こうして三歳から五歳までに、この目的感を持って実行する性質を育てます。目的感を持って生きるということが非常に大切なのです。

意志力、やる気を育てること

では一歳から三歳までは何でしょうか。

三つの自己(バーンの説)

 ところで、子どもは三歳にもなると自分のことを自分でやるだけでなく、お手伝いをしたがるようになります。そのとき、子どもの心の中には、お母さんのようになりたい、お父さんのようになりたいという気持ちがあるのです。

0歳に希望、明るさを

 次に、0歳から一歳のとき、この時期は何を育てるときか。それは希望、明るさを育てるときだとエリクソンは言っています。

四苦八苦を乗り越える明るさ

 仏教ではまた四苦八苦と言います。生老病死の四つの苦しみです。

幼児期に身体で学ばせよう

 この幼児のときに基礎的な根底になる希望、自主性、意志力、目的感、これを頭で思うのでなく、体で感じるように育てたいのです。

幼児のうちなら取り戻せる

 子どもっていうのはすごいですよ。 園のことでも、この園をどうすれば良くなるか。この室の生活をどうすれば良くなるか、気持ちの良い幼稚園にするにはどうするか、こんなことを相談かけますと、なかなかうまいことを言いますよ。